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鳥取地方裁判所米子支部 平成7年(ワ)151号 判決

原告

甲野太郎

右訴訟代理人弁護士

松原三朗

被告

大東京火災海上保険株式会社

右代表者代表取締役

小澤元

右訴訟代理人弁護士

江口保夫

江口美葆子

豊吉彬

高橋敬幸

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

被告は、原告に対し、七八九〇万円及びこれに対する平成七年四月二四日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、原告が、被告に対し、火災保険契約に基づいて、火災保険金を請求する事案である。

一  争いのない事実

1  原告は、平成六年六月二〇日、被告との間で、次のとおりの約定で火災保険契約(以下「本件契約」という。)を締結した。

(一) 保険の目的の所在地

米子市西福原町〈番地略>

(二) 保険の目的を収容する建物

鉄骨造スレート張、スレート葺平屋建事務所(以下「本件建物」という。)

(三) 保険の目的

(1) 本件建物 六五〇万円

(2) 什器備品 二〇〇万円

(3) 商品(フロンガス)

八〇〇〇万円

(四) 保険料 一五万七九九〇円

(五) 保険事故が発生したときは、請求があってから三〇日以内に保険金を支払う。

2  平成七年二月四日、本件建物で火災が発生した(以下「本件火災」という。)。

3  原告は、平成七年三月二三日、被告に対し、本件契約に基づき、保険金を請求した。

二  争点

1  本件火災は、原告によって故意に招致されたものか。

(被告の主張)

本件火災には、次のとおり数々の疑問があり、それらに照らすと、原告による事故招致が推認される。

(一) ストーブの転倒容易工作

原告は、消防官に対し、「原告は灯油ストーブ(火を付けたまま)に給油する際、少量の灯油をこぼし、その灯油で足を滑らせ転倒し、灯油の入ったポリタンクを倒して、灯油を流出させてしまった。そこで、新聞紙を敷いてこぼれた灯油を処理したが、再度足を滑らせ転倒し、その際、ストーブも一緒に倒したため、ストーブから流出した灯油が一気に燃え上がった」と説明している。

原告の右説明によると、原告は二度にわたって転倒し、ストーブ(以下「本件ストーブ」という。)まで倒したとされるが、本件ストーブはコロナ販売株式会社の開放式丸型で底に幅広い置台が設置されており、容易に転倒しないよう設計されているものである。右置台は、本体の四か所の足にビスで固定されているものであるが、鳥取県警察本部科学捜査研究所撮影の写真及び鑑定人が米子警察署から引渡しを受けた本件ストーブの実物によると、置台がはずされていたことが明らかである。これは、原告が前もって置台をはずし、転倒しやすいように工作したものと推認できる。

(二) 対震自動消火装置の不作動工作

本件ストーブは、前方向に37.1度、後方向に41.1度、左方向に48.8度、右方向に36.3度傾斜すると、直ちに対震自動消火装置が作動し、芯が下げられ消火する構造になっている。ところが、鑑定の結果によると、油タンクに溶接されている対震固定金具が人為的に後方に曲げられ、本件ストーブが前記傾斜角度を越えて傾斜しても対震自動消火装置のセットレバーが解除しない構造になっていた。対震固定金具の変形は、芯の交換作業や点検、整備などの通常の取扱いでは考えられず、原告が人為的に曲げたとしか考えられない。

(三) 原告の供述の信憑性

原告は、ポリタンクを転倒させた際、「床には灯油がこぼれ、ストーブを囲むように一面に広がり、大量にこぼれ」たと供述するが(乙一四号証の二)、本件鑑定書によると、給油後であるからポリタンクの残量を五分の二とすると、五秒以内の流出量は一リットル以下であるとされており、原告の右供述は明らかにオーバーな表現である。また、原告は、原告本人尋問において、本件ストーブが転倒した際にすごい音の爆発が起こった旨供述するが、鑑定の結果によると、鑑定人が「対震自動消火装置を作動しないように、セットレバーを固定した上、実験を施行したところ、転倒して約一八秒後に、ストーブから漏れだした灯油が火種となり新聞紙に引火し、爆発音はせず、静かに新聞紙が燃えた」とされており、原告の供述は信用できない。

(四) 飛び込み契約

保険業界において、勧誘募集によらず、契約者が積極的に保険加入することを飛び込み契約というが、この飛び込み契約については事故率が高く、火災保険契約においては自放火の疑いが強いといわれている。本件契約は、被告の代理店による勧誘によるものではなく、原告が自ら積極的に申し込んだ飛び込み契約である。

(五) 原告の経営状況

原告は、自ら事業主として本件建物において、中古車販売業を営んでいたところ、各年度の売上は一〇〇〇万円程度でほぼ横這い状態であるのに対し、販売費及び一般管理費はこれを大きく上回り、次のとおり多額の欠損・負債が生じている(乙一一号証)。

(決算書による毎期損失額)

平成四年六月三〇日現在

一四〇五万円

平成五年六月三〇日現在

三六六九万円

平成六年六月三〇日現在

四七五五万円

右累積損 九八二九万円

(決算書による毎期負債額)

平成四年六月三〇日現在

一三二二万円

平成五年六月三〇日現在

一九二七万円

平成六年六月三〇日現在

二七七〇万円

右累積損 六〇一九万円

(六) フロンガスの購入先、購入金額の虚偽申告

原告は、「フロンガスの購入日時は平成四年二月ないし一〇月頃、購入先は不明で、売主が現金決済で領収書も切らず現物取引をしたいとして、いわゆる飛び込みでセールスに来てそれに応じたため、住所も会社名も不明である。購入代金は一本二二〇〇円、全部で四万二〇〇〇本購入したから、代金合計は九二四〇万円であり、商品名はダイフロン(ダイキン工業株式会社製)一万八九九〇本及びアサヒフロン(旭ガラス株式会社製)二万三〇一〇本である。」と主張している。

ところで、フロンガスは、昭和六三年五月オゾン層保護法が制定され、平成三年三月使用廃止が決まり、平成八年一月一日から全廃された。被告の調査によると、ダイキン工業株式会社は、「平成元年までは一本二五〇グラム入りサービス缶の工場出荷価格は単価二〇〇円から三〇〇円程度で、その後も大きく変動しなかった。」と述べ、旭ガラス株式会社も「工場出荷価格は単価数百円で、オゾン層保護法が制定された後もさほど変動していない。」と述べている。また、流通経路について調査したところ、平成三年ころ、一時期小売価格が上昇したが、以後次第に低下し、平成七年度に入ると単価五〇〇円前後となり、小売店による価格差はあるものの、二八〇円ないし六〇〇円位で販売されていた。

原告は、フロンガス使用全廃による値上がりを考え、平成二年ころ、三〇〇円ないし五〇〇円で大量に仕入れたが、一時は暗業者間で高騰したものの、その後、仕入価格より下落し、死蔵品となって持て余し、火災により保険金に変えようと考え、実行した疑いが濃厚である。

2  原告に不申告ないし虚偽申告が認められるか。

(被告の主張)

(一) 店舗総合保険普通保険約款二六条一項は、「損害が生じたことを知ったときは、これを当会社に遅滞なく通知し、損害見積書に当会社の要求するその他の書類を添えて(中略)提出しなければならない。」と規定し、同条四項は、「正当な理由がないのに第一項(中略)の規定に違反したとき、または提出書類につき知っている事実を表示せず、もしくは不実の表示をしたときは(中略)保険金を支払いません。」と規定している。

(二) 被告は、平成七年七月七日付け書面をもって、原告に対し、原告提出に係る同年三月二三日付け及び同年四月四日付け損害明細書の記載内容に不備な点があるので、損害補充書用紙を送付し、具体的に質問事項を記入のうえ返送されたいと申し入れ、また、同年七月二一日付け書面をもって、田中税理士事務所、米子信用金庫日野橋支店及び有限会社太平自動車に対する質問調査についての同意書用紙を送付し、署印捺印を求めたにもかかわらず、原告はこれを拒絶した。したがって、原告には被告の要求する書面について提出義務違反が認められ、また、フロンガスの購入先や購入価格について不申告ないし虚偽申告が認められるから、被告は保険金支払義務を負わない。

3  仮に、被告に保険金支払義務が認められる場合、原告に支払われるべき保険金額はいくらか。

(原告の主張)

(一) 原告は、本件火災により、次のとおりの損害を被った。

(1) 本件建物

全焼につき六五〇万円

(2) 什器備品

全焼につき二〇〇万円

(3) 商品(フロンガス)

在庫中の四万二〇〇〇本のうち、三万二〇〇〇本が焼失した。一本当たりの単価は二二〇〇円であるので、損害額は合計で七〇四〇万円である。

(二) したがって、原告は、被告に対し、七八九〇万円の保険金請求権を有する。

第三  争点に対する判断

一  証拠(甲五、乙一、七、九、証人乙山一郎、同森麻美、原告)によれば、本件火災は、平成七年二月四日午後一時三五分ころ、米子市西福原〈番地略〉所在の有限会社○○の事務所内にあった本件ストーブ付近から出火したこと、本件火災当時の本件建物内の状況は別紙現場平面図記載のとおりであること、有限会社○○は、平成六年七月一日に設立登記された中古車販売を業とする会社でおるが、実質的には代表者である原告の個人営業であり、従業員として乙山一郎(以下「乙山」という。)と森麻美(以下「森」という。)が勤務していたこと、乙山と森は、平成七年二月四日午後一時前ころ、廃車車両をスクラップ業者に届け、午後一時三〇分ころ、事務所に戻ったこと、その際、原告が火の付いた本件ストーブ付近で新聞紙を広げていたため、乙山が原告に何をしているのか尋ねたところ、原告は、「灯油をこぼしたけー。気をつけー。」と返答し、森に対し、原告の実兄である甲田次郎が代表取締役をしている有限会社甲田自動車(以下「甲田自動車」という。)に古新聞紙をもらいに行くよう指示し、森は直ちに自動車で甲田自動車に向かったこと、一方、乙山は、スクラップ業者の所から戻る途中から便意を催していたため、すぐに別紙現場平面図記載の湯沸室奥にあるトイレに入ったが、約四、五分後、原告の「ワー」とか「オー」という声が聞こえたため、当日納車予定であった顧客が自動車を取りに来たものと思い、トイレから出て事務所に入ったところ、事務所内に煙が充満し、本件ストーブ付近から炎が上がっていたこと、原告は、一一九番に架電し、乙山を促して直ちに事務所の外に避難したことが認められる。

右の事実によれば、本件火災は、原告の何らかの行為によって生じたものであることが認められる。

二  被告は、本件火災は原告が故意に招致したものであると主張するので、まず、この点について判断する。

1  火災発生の機序についての原告の供述の信憑性

(一) 原告は、本件火災発生の機序について、「倉庫内より灯油二〇リットル入りのポリ容器を事務所内に持ち込み、二台のストーブにそれぞれ給油後、ポリ容器を片づける際に、ストーブの給油口から給油ポンプ(手動式)を抜いた際、給油ポンプから床にこぼれ落ちた灯油で足を滑らせ、そのはずみでポリ容器を倒した。ポリ容器から灯油が床に流出したため、あわてて側にあった新聞紙を広げて灯油を吸い取ったが、床に張り付いていた新聞紙一枚を足で取り除こうとした際、足が滑って前のめりに倒れ、本件ストーブに当たり、本件ストーブを転倒させてしまった。その直後、「ドーン」という爆発音とともに、炎と煙が上がり、見る間に燃え広がった。」旨供述している。

(二) しかしながら、原告の供述は、二度にわたって灯油に足を滑らせて転倒したという点においてそもそも不自然であるばかりでなく、本件ストーブに置台が付いていたか否か、灯油入りのポリ容器を転倒させた際に、給油ポンプを差し込んでいなかった方の注入口に蓋がしてあったか否か、給油後、本件ストーブの給油口の蓋をしたか否か、ポリ容器や本件ストーブがどの方向に転倒したか、など基本的な点についてきわめて曖昧である。また、原告は、足を滑らせて本件ストーブを転倒させた際に原告の体のどの部分が本件ストーブに触れたのかという点について、本件火災発生直後は右肩と供述していたが(乙一四号証の一、二)、原告本人尋問の際には右肘ないし右膝と供述するなど重要な点について一貫しない。

(三) ところで、原告は、本件火災発生の直前に、事務所内の二基のストーブ(うち一基が本件ストーブ)の灯油ゲージが残量零を示す赤線の位置まで下がっていたため、満タンに灯油が入ったポリ容器から右二基の油タンクに満タンに給油し、ポリ容器内の残量は三分の一程度になった旨、また、ポリ容器を転倒させた際は慌ててポリ容器を起こした旨供述している(乙一四号証の二)。

ところで、証拠(乙八号証、証人日高敏文)によれば、原告の供述どおりポリ容器内にその容量(二〇リットル)の約三分の一に当たる七リットルの水を入れたまま転倒させると、両方の注入口を開けた状態の場合でも5.3秒間にわたって0.5リットルの水が開いている注入口の方向に向かって流出するにすぎないこと、ポリ容器の片方の注入口に給油ポンプを差し込んだ場合の方が給油ポンプを差し込まない場合より流出量は減少することが認められ、また、証拠(鑑定の結果)によれば、ポリ容器内に約五分の二まで灯油を入れ、両方の注入口を開けたまま転倒させると、五秒間で約0.90リットル、一五秒後で0.96リットルの灯油が流出すること、注入口に給油ポンプを差し込んだ場合の方が給油ポンプを差し込まない場合より流出量は減少すること、流出した灯油は、開いている注入口の方向に広がることが認められる。したがって、原告の供述に従う限り、原告がポリ容器を転倒させた際に流出する灯油の量は、一リットル未満にすぎないはずであるが、原告は、「ストーブを囲うように一面に広がり大量にこぼれ」たと供述し(乙一四号証の二、原告)、しかも灯油は転倒したポリ容器の注入口の方向に広がるのではなく、本件ストーブを囲うように広がった旨供述しており(平成八年一二月二日付け原告本人調書添付図面三)(原告の供述は前掲証拠に照らし直ちに信用できない。

(四) また、原告は、本件ストーブを転倒させた直後に「ドーン」という爆発音がしたと供述し(乙一四号証の一、二、原告)、証人乙山もその旨の供述をする。

しかしながら、証拠(乙八号証、証人日高)によれば、点火して十分に加熱した本件ストーブと同一モデルのストーブ上に灯油をしみ込ませた新聞紙を乗せても発火しなかったこと、本件事務所の床と同様のピータイルシートの上に灯油をまき、ライターの火を当てても引火しなかったことが認められる。また、鑑定の結果によれば、本件ストーブと基本構造、大きさ、発熱量などが同等であるストーブを約一時間燃焼させたうえ、そのストーブの正面側に灯油約1.5リットルをまき、その上に新聞紙を一層、三枚敷いた後、二分後に右ストーブを正面側に転倒させると、約一八秒後にストーブから漏れ出した灯油が火種となり、敷いてあった新聞紙に引火するが、爆発音はせず、静かに新聞紙が燃え、ストーブから漏れ出した灯油により炎が次第に大きくなることが認められる。右事実に、本件ストーブの近辺にいたとする原告が何らの傷害を負っていないこと(乙一号証)、乙山の平成七年三月二三日付け確認書(乙九号証)には爆発音に関する記載は全くないことをあわせ考慮すると、爆発が生じたとする原告及び証人乙山の供述は前掲証拠に照らし信用できない。

(五) 以上のとおり、原告の供述は、全体として曖昧な点が多く、また、重要な点において一貫しないばかりか、鑑定の結果等に照らしても直ちに信用できないといわなければならない。

2  対震自動消火装置の状態

証拠(乙六、八号証、乙一五号証の五ないし九、証人日高、鑑定の結果)によれば、本件ストーブには対震自動消火装置が付いており、地震などの振動・衝撃により前方向に37.1度、後方向に41.1度、左方向に48.8度、右方向に36.3度傾斜すると、自動的に消火する構造になっていること、右対震自動消火装置の仕組みは、右装置をセットすれば、芯調節つまみに付いているつめ車と作動金具のピンがかみ合って、芯が固定され、点火が可能になるが、右装置の上部に付いている金属製の振り子が振動やストーブの傾斜により倒れると、作動金具のピンがつめ車から離れ、芯調節つまみがスプリングの力で回転し芯が降下して消火されるというものであること、ところが、本件ストーブにおいては、灯油タンクに溶接されている対震固定金具が後方(ストーブ本体側)に変形し、かつ、振り子の取付台が前方(ストーブ本体から見て外側)に変形していたため、本件ストーブが転倒し振り子が倒れても、作動金具のピンがつめ車にかみ合ったままで、消火されない構造になっていたこと、右部品の変形は、芯交換作業や点検・整備などの通常の取扱いでは生じ難いことが認められる。

3  置台の撤去

証拠(乙一、六号証、一五号証の一ないし三、鑑定の結果)によれば、本件ストーブは、本来灯油タンクに付いている四本の足を止めねじで置台に固定して使用することになっているところ、本件火災当時、本件ストーブの置台は撤去されていたことが認められる。

4  本件契約締結の経緯

(一) 証拠(甲一、四号証、証人安田和雄、同谷口巧、原告)によれば、次の事実が認められ、他に右認定を左右する証拠はない。

(1) 被告の代理店をしている安田和雄は、原告を介して原告の妻の弟である鷲見孝司(以下「鷲見」という。)に自動車の任意保険に入ってもらっていたが、鷲見が一年間に三回も交通事故を起こしたことから、被告の指示で平成六年四月か五月に右契約関係は終了した。

(2) その後、かつて甲田自動車に勤務していたことのある富士火災海上保険株式会社(以下「富士火災」という。)の谷口巧を通じて、鷲見の自動車保険契約は富士火災に引き継がれたが、保険料の追徴をめぐって原告と富士火災との間で争いが生じ、平成六年六月、原告によって鷲見の自動車保険契約のみならず、当時、原告と富士火災との間で締結されていた火災保険契約、自動車保険契約、積立傷害保険などすべての保険契約が原告によって解約された。

(3) ところで、原告は、平成二年一一月二九日、富士火災との間で、本件建物と什器備品について火災保険契約を締結し、その後も更新していたところ、谷口巧は、契約締結後数年して原告の所に大量のフロンガスが納入された後、原告からフロンガスについて火災保険契約を締結できないかという打診を受け、米子支社長に取り次いだが、富士火災では保険金額が高額であることなどから右申入れを拒絶した。本件建物と什器備品についての火災保険契約は、前記鷲見の自動車保険契約をめぐるトラブルの際に他の保険契約とともに解約された。

(4) 安田和雄は、平成六年六月、原告から呼び出され、原告が従前富士火災と契約していた保険契約をすべて解約し、被告との間で新たに保険契約を締結したい旨の申入れを受け、各三、四件の自動車保険契約と積立傷害保険契約を締結し、鷲見の自動車保険契約も被告で引き継ぐこととなった。その際、安田和雄は、原告からフロンガスについても火災保険契約を締結したい旨の打診を受けたため、被告に問い合わせたところ、被告の了解が得られた。そこで、原告は、平成六年六月二〇日、被告との間で、本件建物、什器備品及びフロンガスを被保険物件として本件契約を締結した。

(二) 右の事実によれば、原告は、富士火災と保険契約を締結していたころから、フロンガスについても火災保険に加入することを希望していたが、富士火災に断れていたところ、鷲見の自動車保険契約をめぐって富士火災との間でトラブルが生じ、多数の保険契約を富士火災から被告に引き継がせる際に、フロンガスについても保険に加入することを希望し、これを了解した被告との間で本件契約を締結したことが認められる。

5  原告の負債状況及びフロンガスの価格の変動

(一) 原告の負債状況

証拠(乙八、一一号証、証人田中康晴、原告)によれば、原告は、昭和五三年ころから甲田自動車の一営業部門として、国際外車センター(その後○○に変更)の名称で中古車販売を担当していたこと、右中古車販売業における各年度の売上は一〇〇〇万円程度であるのに対し、販売費及び一般管理費はこれを大きく上回り、損失額は、平成四年六月三〇日現在で約一四〇五万円、平成五年六月三〇日現在で約五〇七五万円、平成六年六月三〇日現在で約九八三一万円であり、負債額は、平成四年六月三〇日現在で約一三二二万円、平成五年六月三〇日現在で約一九二三万円、平成六年六月三〇日現在で約二七七〇万円であること、原告は、平成六年七月一日、独立し、信販取引及び車両の名義人として会社名義を使用するために有限会社を設立したが、営業は原告個人で行い、税務申告も個人でしたこと、原告は、独立の際、実質的には原告個人の債務であった分などの負債を甲田自動車から引き継いでおり、平成六年一二月三一日現在で、少なくとも米子信用金庫日野橋支店から五九五五万五九三九円、甲田自動車から三八五万八三六二円、株式会社ビックツールから一六四九万四三三二円の借入金があったこと、右のほか、原告は、フロンガスを購入する際、兄であるAから三八〇〇万円、Bから三五〇〇万円を借り入れたが、全く返済していないことが認められる。

(二) フロンガスの価格の変動

証拠(乙八号証、証人日高、原告)によれば、フロンガスは、各分野で幅広く利用されていたが、昭和五五年ころからオゾン層破壊の問題が国際的に取り上げられるようになり、昭和六〇年オゾン層保護に関するウイーン条約が締結され、我が国でも昭和六三年五月オゾン層保護法が制定され、平成三年三月にはフロンガスの廃止が決まり、平成八年一月一日をもって全廃されたこと、本件のフロンガスと同じ二五〇グラム缶の平成元年ころの工場出荷価格は二〇〇円ないし三〇〇円程度であり、廃止が決定した後も大きな変動はなかったこと、しかし、流通過程では廃止による価格の高騰を見込んだ闇業者などによる買い占めが行われ、平成三年ないし四年ころには一時期卸売価格が一五〇〇円ないし二〇〇〇円程度に高騰したが、遅くとも平成六年には元に戻り、平成七年ころは五〇〇円ないし六〇〇円程度に落ち着いたこと、平成三年ないし四年のころ闇業者のような者からカーエアコン取付業者や自動車修理工場に対し盛んにフロンガスの売込みがあり、原告も平成四年ころかかる闇業者から価格の高騰を見込んでフロンガスを大量に購入したことが認められ、右認定に反する甲二、三号証は乙八号証に照らし直ちに採用できない。

三 以上によれば、前叙のとおり本件火災は原告の行為によって発生したと認められるところ、原告の供述は直ちに信用できず、原告が主張するような機序で本件火災が発生するとは考え難いこと、本件ストーブの対震自動消火装置に人為的に工作が加えられ、置台も撤去されていたこと(なお、鑑定の結果によれば、置台がない方が転倒に至る傾斜角度は大きいことが認められるが、通常人の感覚としては置台がない方が転倒しやすいと考えられるから、工作の可能性が否定されることにはならない。)、原告は、本件火災発生当時、多額の債務を負っていたこと、原告は、平成四年ころ、フロンガス廃止に伴う価格の上昇を見込んで大量に購入したが、売却できないまま保有し続け、本件火災発生当時は価格の高騰も終息し、多額の損失を被っていたこと、本件契約は原告の申入れによって締結されたものであることに照らすと、現実にどのような機序で本件火災が発生したか不明であるものの、本件火災は原告の故意により招致されたものと認められる。

四  したがって、原告の請求はその余の点について判断するまでもなく理由がないので、棄却し、主文のとおり判決する。

(裁判官足立哲)

別紙現場平面図〈省略〉

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